映画を観て、想うこと。

『バイス』を観て。

バイス Vice, 2018
監督:アダム・マッケイ(Adam McKay)

 

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“I won’t disappoint you again, Lin.”
(「二度と君を失望させないよ、リン。」)

 

2001~2009年のアメリカ、ブッシュ政権で副大統領を務めたディック・チェイニークリスチャン・ベール)の半生を描いた政治ドラマ。酒癖の悪かった彼はワイオミング州で電気工をしながら自堕落な生活を送っていたが、後に妻となる恋人リンの叱咤激励により目つきが変わる。別人のように生まれ変わった彼は政界をめざし、その静かに燃える野心で政界を登りつめていく。そして、アメリカ史上最悪の悪夢(9.11)を副大統領として迎える。ちなみに、タイトルのViceは副大統領(Vice President)のVice(副)という意味のほかに「悪徳、邪悪」という意味もある。

 

“You want to be loved? Go be a movie star.”
(「好かれたいのか?だったら映画スターにでもなれ。」)

 

お飾りの役職である副大統領という立場にありながら、裏でブッシュ政権の意思決定を担っていたディック・チェイニー。こんな人がいたのかと驚いた。表向きは物静かで何を考えているかわからない彼は、内面では想像できないほどのしたたかさと野心を秘めていた。そんなしゃがれた囁き声が特徴的な彼を、クリスチャン・ベールが見事に演じている。体重を増やし、髪型を変え、話し方や癖を研究し尽くして演じる彼の演技は一見の価値あり。カメレオン俳優の本領発揮、プロである。また、決して明るい内容ではない政治ものを、絶妙なコメディタッチと風刺のきいた作風で映画化した監督、アダム・マッケイ。彼もまたプロである。こういった内容の映画を日本の政治家を主人公に作ったら、どうなってしまうのか。間違いなく”政界が揺れた”、”日本映画史上最大の問題作”といったキャッチフレーズがつけられ、驚くほどの興行収入をたたき出すかもしれない(ネタも尽きないと思うが)。

 

“The Vice Presidency is a mostly symbolic job.”
(「副大統領は名誉職だよ。」)

 

思い返してみれば、子供の頃、探検ごっこをするときはいつも最初に手を挙げて「僕、副隊長がいい」と言っていたことを思い出した。ドラゴンボールは悟空よりベジータの方が好きだったし、新撰組近藤勇より土方歳三の方がカッコいいと思っていた。一番先頭に立って引っ張らないけど、隊長のサポートはしつつ、何か起きたときはカバーする。非常時のヒーローになれるバイスに憧れる、この考えって悪徳なのだろうか。

 

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さて、次は何観ようかな。