映画を観て、想うこと。

『イエスタデイ』を観て。

エスタデイ Yesterday, 2019
監督ダニー・ボイル(Danny Boyle)

 

f:id:filmseemorehoffman:20200804122651j:plain

 

“When did you write that?”
「その曲、いつ書いたの?」

“I didn’t write it. Paul McCartney wrote it, The Beatles.”
「俺じゃなくて、ポール・マッカートニーだよ。ビートルズさ。」

“Who?”
「誰?」

 

世界規模で起きた原因不明の大停電のあと、自分を除く世界中の人々の記憶から「ビートルズ」の存在が消えてしまった。周囲の人との会話からはにわかに信じられなかったシンガーソングライターのジャック(ヒメーシュ・パテル)は、「ビートルズ」がインターネットの検索にも引っかからないことを確認し、驚愕する。あの伝説的バンドと彼らの名曲を知っているのは自分だけと確信したジャックは、諦めかけていた音楽人生を最強のヒット曲を引っ提げて再びまい進すること決意をする。しかし、名曲たちを演奏することには大きな責任も付きまとうことになるのだった。

 

“A world without the Beatles is a world that’s infinitely worse.”
ビートルズのいない世界なんて、味気なくて潤いのない世界だわ。」

 

映画が実現できる「もしも~だったら」という設定を、往年の名曲と共に楽しませてくれる一作。この作品の稀有なのは、ファンタジーの特権である「存在しないものを創り出す」ことをせず、「当たり前にあるはずのものが存在しない」世界を描いていることだろう。しかも、存在しなくなるのが、誰もが知るあのビートルズであり、彼らを覚えている唯一の人物が鳴かず飛ばずの売れないミュージシャンというのだから、次の展開にワクワクせずにはいられない。

 

“Have you had a happy life?”
「お幸せですか?」

“Very.”
「とてもね。」

“But not successful.”
「有名でなくても?」

“I just said, very happy. That means successful.”
「なあ君、幸せなのに、有名になる必要はない。」

 

自分だったらどうするだろう?観る人は少なからず主人公のジャックの立場に自分を置き換えて考えるに違いない。「アーティストとして間違いなく成功できるチャンスだ」と思う人もいれば、「あの素晴らしい名曲たちを人々に届けなくては」という使命感に駆られる人もいるだろう。幸いなことに、ミュージシャンだったジャックは新しい世界(ビートルズのいない世界)で自らがビートルズの代わりを務める準備はあった。戸惑いながらも人前で名曲たちを披露しどんどん有名になっていく彼は、最後に何を決断するのか。売れないミュージシャンがビートルズを背負う姿は滑稽であり、痛快でもある。

 

この作品のカギとなるのは、ジャックが「いいヤツ」であるということだろう。そんないいヤツを演じたイギリスの俳優ヒメーシュ・パテル、まだ出演作は少ないが今後が楽しみな俳優だ。ビートルズの曲を演奏するのに欠かせない歌唱力は文句なし、全編で彼自身が演奏し歌っている。温かい歌声もさることながら、悩んだり葛藤したりする無邪気で素朴な青年を見事に演じている。また、本作には驚きの出演者が多く登場する。あの有名ミュージシャンであるエド・シーランも本人役で出演しているのに加え、物語の後半には「あの人」も登場する(是非本編をご覧ください)。ビートルズファンであれば、恐らく涙なしには見られないシーンである。

 

“You want a good life? It’s not complicated. Tell the girl you love that you love her. And tell the truth to everyone, whenever you can.”
「幸せを望むなら、深く考えるな。愛する女性がいるなら好きだと言え。いつでもだれに対しても正直でいろ。」

 

「一番好きなビートルズの曲は?」と聞かれたら、皆さんはどの曲を選ぶだろう。私の一番好きな曲は、嬉しいことに、本作のラストを飾っていた。自分の好きな曲がどこで登場するか、そんな楽しみ方もできる一作だ。昔からのファンはもちろんのこと、若い人たちにとっても「この曲、あのCMの曲だ!」と、聞き覚えのある曲が多いはず。そう考えると、改めてビートルズってすごいバンドだなぁ。

 

f:id:filmseemorehoffman:20200804122720j:plain

 

さて、次は何観ようかな。