映画を観て、想うこと。

チャドウィック・ボーズマンを偲んで、想うこと。

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2020年8月28日、43歳でこの世を去ったチャドウィック・ボーズマン。青天の霹靂ともいうべき突然の訃報に世界中の映画ファンが驚いたことだろう。「素晴らしいストーリーを伝える妨げになる」との想いから、公表されていなかった何年にもわたるガンとの闘病生活、そんな中でも数々の作品に挑んでいた事実に、誰しもが彼に対する畏敬の念に打たれたに違いない。

 

その豊かな才能により、数多くの名作を世に残したチャドウィック。あまりにも早いお別れに、立ち直るにはまだ時間がかかりそうだが、突然できた心の穴を埋めるべく、彼の代表作3作を観賞してみた。改めて、彼はどんな役者だったのか、知りたくなったからだ。

 

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“You give me a uniform, you give me a number on my back, and I’ll give you the guts.”
「もし僕にユニフォームをくれるなら、背番号をくれるなら、勇気で応えます。」

(映画『42 世界を変えた男』(2013)より)

 

1940年代のアメリカ、まだまだ黒人差別の激しかったこの時代にアフリカ系アメリカ人初のメジャーリーガーとなったジャッキー・ロビンソンの半生を描いた作品『42 世界を変えた男』。やられてもやり返さないガッツを、差別に勝つ「勇気」を証明してほしいと願う球団のGM(ゼネラルマネージャー)の願いを背負い、傷つきながらも懸命に戦う主人公ジャッキーを演じたチャドウィック。彼の雄姿は、虐げられている身でありながら耐え忍ぶことで融和の象徴となるべく奮闘する、まさに世界を変えたヒーローの姿を我々に届けてくれた。

 

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“I always did right by myself. I’m James Brown and I made a difference.”
「俺はいつでも欲求に従ってきた。俺はジェームズ・ブラウン、世界を変えた男だ。」

(映画『ジェームズ・ブラウン 最高の魂を持つ男』(2014)より)

 

現代の音楽業界に多大な影響を与えた「ゴッドファーザー・オブ・ソウル」、ジェームズ・ブラウンを取り上げた作品『ジェームズ・ブラウン 最高の魂を持つ男』。数々の伝説的なエピソードに触れたシーンもそうだが、やはりミュージシャンを題材にした映画はステージ上での演奏シーンに注目せずにはいられない。独特なシャウト、グルーヴに乗る動き、細かいステップの踊りはチャドウィックの手により見事にスクリーンに甦った。不遇の幼少期から才能で這い上がってきたジェームズ・ブラウンのギラギラした輝きと暗雲立ち込める半生を、チャドウィックが注ぎ込んだ役作りに対する弛まぬ努力のお陰で、我々は垣間見ることができる。

 

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“Tell me how to best protect Wakanda? I want to be a great king, Baba. Just like you.”
「ワカンダをどう守ればよいのでしょう?立派な王になりたいのです。父上のような。」

(映画『ブラックパンサー』(2018)より)

 

MCUマーベル・シネマティック・ユニバース)という大成功を収めたアメコミ映画の世界にあって、史上初の黒人ヒーローを主人公に据えた作品『ブラックパンサー』。ワカンダ(架空の国)の国王という一面もあるこの役柄にチャドウィックが与えた「謙虚な王」という印象。決して完璧ではない、でも民を正しく導く偉大な王になりたいと願い葛藤する若き国王の姿は、映画を観賞した人々の襟すらも正してしまうほどだ。本作の撮影時にはすでにガンとの闘病生活を送っており、そんな中でアクションや肉体改造を行っていたことになる。清廉潔白な王/ヒーローを演じることができたのは、やはり清廉潔白な役者/人間であったチャドウィックの他にいなかったであろう。

 

彼の作品から共通して受けた印象、彼の魅力は「葛藤」と「懸命」を表現することに長けていた役者だったと思う。それはまるで、病と闘う不安の日々の中で、それでも人々の前では毅然とした姿勢を崩さなかったチャドウィック自身の心境を役に投影しているようだ。つまり、チャドウィック自身が、世界を変えた男であり、最高の魂を持つ男であり、皆に愛されるヒーローだったのだ。

 

彼の姿はもう新たな映画に見ることはできない。しかし、彼が残した数々の名作は今後もずっと残り続け、我々に多くの感動とインスピレーションを与えてくれるだろう。

 

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ご冥福をお祈りいたします。