映画を観て、想うこと。

『幸せへのまわり道』を観て。

幸せへのまわり道2019
【原題】A Beautiful Day in the Neighborhood
【監督】マリエル・ヘラーMarielle Heller

 

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“It’s strange but sometimes, it’s hardest of all to forgive someone we love.”
「不思議なことに、愛している相手ほど許すのが難しい時がある。」

 

優秀な雑誌記者であるロイド・ボーゲル(マシュー・リス)は上司からの依頼で子供向けの教育番組の司会者として人気を博していたフレッド・ロジャース(トム・ハンクス)を取材することになる。子供に話しかけるような優しい口調で大人にも接するフレッドの不思議な人柄に触れる中で、ロイドは長年抱えていた父親との確執と向き合っていく。

 

“What do you think is the biggest mistakes parents make in raising their children?”
「子育てにおける最大の間違いは何だと思いますか?」

“Not to remember their own childhood.”
「自分も子供だったことを忘れてしまうことです。」

 

実在したテレビ番組の司会者をトム・ハンクスが演じた本作は、町のミニチュアやパペット人形が登場するシーンも差し込まれており、映画そのものが所々アメリカの教育番組っぽく制作されている。赤いセーター姿のトム・ハンクスが印象的で、子供に対しても大人に対して変わらず丁寧にゆっくりと語り掛ける話し方には、すべてを受け入れてくれているような優しさと、すべてを見透かしているような鋭さを感じる。作品の中ではロイドの悩みにフレッドが寄り添っているように見えるが、気が付けば本作を観賞している自分自身の心の中にフレッドを感じる瞬間があり、ハッとさせられる映画だ。

 

“He’s not a perfect person. He has a temper. He chooses how he responds to that anger.”
「彼は完璧じゃないわ。怒りっぽいのよ。その怒りを抑える道を選んでる。」

 

本作の核となるのが「自らの怒りを制御する」という概念だ。教育番組の名MCで感情の乱れをほとんど見せない聖人のようなフレッド、彼もまた努力のうえで感情を制御していることがフレッドの奥さんから語られるシーンがある。世の中に怒りを感じない人間なんていない。もし聖人のように感じる人がいたら、その人は努力と訓練で培った独自の方法で怒りを他者に見せないようにコントロールしているのだろう。それが結果的に、「他者を赦す」というもう一つの重要な概念に自らを導くことになる。大切なのは、自分も傷つかず、他人も傷つけないこと。人それぞれ違うであろうその方法をまずは地道に見つけることから始めたい。フレッドもまた、完璧な人間ではなく、長きにわたる努力と忍耐の末にそれを身に着けたことが、本作のラストで描かれる。

 

“Anything mentionable is manageable.”
「言葉にできることは乗り越えられる。」

 

この言葉もまた、強烈に心に響いた。言葉の重要性にも本作は改めて気づかせてくれた。我々が不安に思うこと、怒りを感じること、解決できないことは「何だかわからないけど」という枕詞が付くことが多い。負の感情と対面した時、まずはそれらを具体的な言葉にする。そうすると対処できることのように感じてこないだろうか。やってみよう。

 

ついでにもう一言。何本も映画を観てきた中で、トム・ハンクスほど美しい英語を話す役者は他にいないと思う。特に発音においては、普通ならほとんど聞こえないような単語の細部に至るまで丁寧に発音している。お手本のような英語だ。英語を学んでいる人は是非、彼の出演作を観て参考にしてほしい。

 

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さて、次は何観ようかな。