映画を観て、想うこと。

『散り椿』を観て。

散り椿』 2018
【監督】木村 大作

 

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「そなたの頼みを果たせたら、褒めてくれるか?」
「お褒めいたしますとも。」

 

瓜生新兵衛(岡田准一)は故郷である扇野藩に蔓延(はびこ)る不正を追及したことで、妻・篠(麻生久美子)とともに藩を逐(お)われていた。やがて、病を患った篠は「自分が死んだら、故郷に咲く散り椿を自分の代わりに見に戻ってほしい」との願いを新兵衛に託し、この世を去る。最愛の妻の願いを託された新兵衛は、再び故郷・扇野藩に戻り、過去の因縁と向き合うのだった。

 

「お優しすぎまする。」

 

本作を手掛けた木村監督は、あの黒澤明監督のもとで撮影助手を務めていたこともある、日本が誇る撮影技師の一人である(本作も監督自ら撮影されている)。数多くの映画をキャメラのレンズ越しに撮影してこられた木村監督が本作で目指したのは、「美しい時代劇を作ること」だったとのこと。その志の通り、本作は日本人であれば心に刺さらないはずがないほどふんだんに日本の美しさが詰め込まれた一作となっている。俳優陣の演技(立ち居振る舞いや所作)もさることながら、注目してほしいのは日本の四季折々の自然風景である。雨、雪、日光、竹林、花、川、それら自然の中にある建物・家屋とそこで生活する人々の様子が絶妙なアングルで捉えられている。もはや映画作品というよりも芸術作品と表現する方が相応しいようにすら感じる。

 

「正しき道を進むことは、必ずしも人を幸せにするとは限らんよ。」

 

ただ、本作の見どころをどーしても一つだけ選べと言われたら(誰もそんなこと言わないとは思うが)、やはり岡田准一さんの演技と言いたくなってしまう。最近はステージ上で歌って踊る「アイドル(V6)・岡田准一」としての姿よりも、銀幕の中で光り輝く「俳優・岡田准一」としての姿を目にする機会が増えた彼は、時代劇で一際魅力が映える役者だと思う。彼が演じた瓜生新兵衛という武士は、寡黙で多くを語らず、懐が深く、優しい。これだけでも男女問わず惚れてしまうような武士である彼は、いざ戦うとなったら、恐ろしく強くもあるのだ。

 

本作のもう一つの見どころは、殺陣(たて)である(「どーしても一つだけ選べ」ではなかったのかと思ったそこのあなた、申し訳ないとした言いようがない)。岡田さん自ら殺陣作りにも参加されたという本作のチャンバラシーンは、日本刀による命のやり取りをリアルに感じる迫力が備わっている。特に、岡田さんの日本刀さばきは、そのままあの時代にタイムスリップしたとしても勝てるお侍さんはいないのではないかと思わせるほど、正に「鬼」のような強さである。殺気を纏った岡田さんがゆっくり刀を抜き、重心を低く構えた刹那、”静”から”動”に転じるスピードはまさに目にも止まらぬ早業、一瞬で相手の命を絶つ緊迫感は見ていてヒリヒリする。他の時代劇とは一味違う殺陣からは、命がけで斬り合いをしている「当時は本当にこうやって戦っていたのではないか」と思わせる信憑性がある。

 

「主君が魚であるならば家臣、領民は水でござる。美しい水が無ければ、魚は生きられません。」

 

他にも、本作は語りたくなる見どころが満載である(もはや最初の「どーしても一つだけ選べ」のくだりはいらなかったのではないかと思ったそこのあなた、その通りとしか言いようがない)。ミステリー要素を含んだ展開、時代劇に不思議と合うピアノ・バイオリン・チェロの音色、心に響く女性たちの慎み深いセリフ(「お褒めいたしますとも」、「お優しすぎまする」なんて、人生で一度は言われてみたい)、時代劇をあまり見ない人も是非、一見の価値ありの名作だ。

 

椿の花言葉は「控えめな素晴らしさ」、「気取らない優美さ」らしい。一時期見ない日はないほどテレビで流れていた某シャンプー(TSU**KI)のCMのようなきらびやかな派手さはなくとも、本作はこの花言葉の通り、日本人の根幹にある奥ゆかしくも確実な強さ、魅力がある。

 

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さて、次は何観ようかな。