映画を観て、想うこと。

『6才のボクが、大人になるまで。』を観て。

6のボクが、大人になるまで。』 2014
【原題】Boyhood
【監督】リチャード・リンクレイター(Richard Linklater)

 

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“You don’t want the bumpers. Life doesn’t give you bumpers.”
「(ボーリングレーンに)柵はなくていい。人生に柵はない。」

 

6才の少年メイソン(エラー・コルトレーン)は両親の離婚後、母親のオリヴィエ(パトリシア・アークエット)と姉のサマンサ(ローレライ・リンクレイター)の3人で暮らしていた。母親の大学への進学を機に突如決まった引っ越しに戸惑いつつも、週末にだけ会える父親(イーサン・ホーク)との時間は楽しく、大切なことを学ぶ貴重なものだった。少しずつ大人になっていくメイソンと彼の家族を月日の経過とともに描く”奇跡的”な一作。

 

“I just thought that there would be more.”
「もっと長いかと思ってたわ。」

 

ついつい人に語りたくなってしまう映画がある。本作は正にそれだ。ストーリーだけを聞くと一見何がそんなにすごいのかがわからない本作には、傑作と呼ばれるにふさわしい理由がある。それは、本作が「時間」を味方につけた映画だからだ。本作の制作が開始されたのは2002年、物語の中で描かれる12年間の月日を、本当に12年間の歳月を費やして、主要キャストを変えずに、役者たちの成長や加齢もスクリーンに収めながら撮影しているからだ。

 

何か一つのことを成し遂げるのに12年間をかけたことがある人は少ないと思う。12年前の自分が始めたことを、今も続けている人はどれほどいるのだろう。(ただ時間をかければいいということではないが)そんな大業を映画でやってのけたのだから、本作の監督と主要キャストたちの映画に捧げた12年間に敬意を表したくなる。誰か一人でも「やっぱり止めない?」と言い出していたら、誰か一人でもキャストが降板していたら、この映画は本当の意味で完成はしなかった。この映画を観賞することは奇跡を目の当たりにしているのと同じことなのだ。

 

主演のエラー・コルトレーンは6才~18才までこの映画に携わり続け、彼自身の12年間の成長がこの一作の映画の中に収められている。「6才のボク」の成長に目が行きがちだが、個人的には彼の両親(大人たち)の成長(というよりは加齢による変化)の方が感慨深い。あどけなかった少年にヒゲを生やすほどの時間は、イーサン・ホーク(父親役、撮影開始時32才)をチャラチャラしたパパからシブいオヤジに、パトリシア・アークエット(母親役、撮影開始時34才、本作で第87回アカデミー賞助演女優賞受賞)を若いママから更年期を迎えたお尻の大きなおばちゃんに変貌させている。年を取るって素敵なことだなと、二人の役者の変化を見ていて感じる。

 

“You know how everyone’s always saying “Seize the moment”? I don’t know, I’m kinda thinking it’s the other way around. You know, like, the moment seizes us.”
「よくみんな一瞬を逃すなって言うでしょう?でも、私にはそれが逆のように思えるの。一瞬が私たちを逃がさないんじゃないかって。」

“Yeah, yeah I know. It’s constant. The moment, it’s just. It’s like it’s always right now, you know?”
「ああ、わかるよ。時間は普遍なんだ。一瞬っていうのは。なんかこう、常にそこにあるんだ。」

 

こういうと語弊があるかもしれないが、本作には物語を劇的に盛り上げるような大きな見せ場は存在しない(不要だとも思う)。それなのになぜ、決して短くない2時間強の時間をあっという間に感じたのか。それはきっと、どこにでもあるような家族の「日常」に没頭したからだと思う。日常の出来事は油断すると見逃してしまったり、気づかないうちに通り過ぎて行ってしまうことの連続だが、我々の日常も本当は「いつまでも見ていた」と思うほど面白いものなのだ。貴重な気づきだ。

 

“So what’s the point?”
「要点は何?」

“Of what?”
「何の?」

“I don’t know, any of this. Everything.”
「さあ、今までの話の。全部。」

 

終盤、大人になった青年メイソンが父親に投げかけるこの問い。これまでのお互いの人生を振り返り「一体何の意味があったのか?」と、ちょっと意地悪な質問を父親に投げかける。気になる父親の回答は「そんなの知るもんか。ただ勢いで生きてるんだよ。」だった。長い時間を費やして撮影された本作のクライマックスシーンのこのやり取りは、「そうか、人生ってそういうもんでいいんだ」と人生の理(ことわり)を象徴しているようで、なぜかちょっと嬉しくなり、なぜかちょっと笑ってしまった。

 

最近、友人たちに立て続けに子供が生まれた。これから我が子が大人になるまでを見守っていく彼らに、是非この映画を観てほしいと思う。ただ、本作は2時間40分を超える超大作。そんな時間、果たして彼らに捻出できるのだろうか。いや、是非捻出してほしい。光陰は矢の如く過ぎてゆき、その一瞬一瞬が尊いものであることを実感できる、あっという間の2時間になるはずだから。彼ら家族のこれからの歳月は、名作映画に引けを取らないほど“すべての瞬間に、「大切」が宿ってる”(本作のキャッチコピー)日々になることを信じて疑わない。

 

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さて、次は何観ようかな。