映画を観て、想うこと。

『孤狼の血』を観て。

孤狼の血』 2018
【監督】白石 和彌

 

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警察じゃけぇ、何をしてもええんじゃ。

 

暴力団対策法成立直前、昭和63年の広島・呉原市(架空の都市)に配属された新人刑事の日岡松坂桃李)は、ベテラン刑事の大上(役所広司)と組むことになる。暴力団の関与が疑われる失踪事件を型破りな捜査方法で追う大上に対し、日岡は狼狽する。捜査が進む中で事件は思わぬ展開を見せる。暴力団同士の抗争に発展することを防ぐためには手段を択ばない大上の姿に、品行方正な正義を信じていた日岡は徐々に影響を受けていく。

 

「辛抱出来ん性分じゃけぇワシら極道になったんじゃ。」

 

危ない橋を渡る男たちの汗とタバコと血なまぐさい香りがスクリーン越しにムンムンと届いてきそうな一作。原作は柚月裕子さんの大ヒット警察小説。監督は生々しい人間模様を生々しく描くことに長けた、『凶悪』(2013年)や『日本で一番悪い奴ら』(2016年)などの代表作で知られる白石和彌監督。最強の原作と最強の監督のタッグを筆頭に、余人をもって代えがたいキャストが集結したこの映画は、間違いなく日本映画界に勢いを与えてくれる一つの着火剤的役割を担ってくれたと信じて疑わない。

 

「ワシはもう綱の上に乗ってしもうとるんじゃ。ほんなら落ちんように、落ちて死なんように、前に進むしかないやないの。

 

本作を観るうえで、過激な描写には覚悟が必要だ。作品自体もR15+の年齢制限に指定されており、決して万人に勧められる映画でないことは確か。間違いなく、未来永劫地上波(テレビ)では流せないであろう。でも、本作を観て率直に感じた感想は「日本はこういう映画を作り続けてほしい」だった。何せ、演じている役者さんたちが活き活きしているのだ。あんなに優しそうな役所広司さんが、あんなに爽やかな江口洋介さんが、竹ノ内豊さんが、中村倫也さんが、みんな活き活きと暴力刑事やヤクザを演じている。それに加えて、曲者役がよく似合う(誉めています)滝藤賢一さんや中村獅童さん、美しくて気丈なクラブのママ役の真木よう子さん、そして本物の親分にしか見えない石橋蓮司さんと伊吹五郎さん。みんな活気に満ちた演技を披露している。また、彼らの魅力をより引き立てているのが、彼らの話す呉弁。ドスの効いた迫力を纏うこの言葉、観終わった後についついうつってしまうのでご注意を。

 

コンプライアンスという言葉が声高に叫ばれるようになり、映画だけでなく、テレビやドラマにおいても作りたいものが中々作れない風潮が出てきている中、映画はこうあるべきであると思う。「非日常」を提供する使命を、日本映画は是非担ってほしい。我々が普段接しない非日常の中にエネルギーが潜んでいるからだ。ボクシングやプロレスの試合に人々が熱狂するように、人はどこか暴力を本能的に求めてしまうところがあるのかもしれない。いや、正確には暴力に惹かれているのではなく、それが生み出す熱量やパワーに惹かれるのだ。そういう意味で、本作に登場する警察やヤクザの生き様とそこから発せられる熱量は生半可ではない。決して暴力を肯定するわけではないが、本作の不都合なものでも隠さない潔さと共に、そのパワーを観て感じてほしい。

 

「どっちかが壊れるまで、戦争しちゃろうじゃないの。」

 

物語の観点から本作の魅力を述べるなら、やはり「継承」というテーマ。大上から日岡へと引き継がれる孤狼の意志、その引き継がれる過程の描き方がまた良い。「お前に託した」なんていうセリフは出てこない、いやもはや大上は日岡に託したとすら思っていない。日岡は言うなれば、勝手に受け継ぐのである。この過程が、作中に登場するZIPPOというアイテムで見事に表現されている。「手渡される」のではなく「拾う」、このカッコ良さに「継承って、こうあるべきなのかも」と唸ってしまう。

 

じゃあ聞くがのぉ、正義とは何じゃ?

 

本作の続編『孤狼の血 LEVEL2』が現在映画館で公開中。原作小説から離れた完全オリジナルストーリーで本作の3年後が描かれるとのこと。大上(役所広司)の意志を受け継いだ日岡松坂桃李)は一体どのような狼になっているのか。

ぶち気になるけぇ、映画館に観に行っちゃろうじゃなぁの。(←見事にうつった)

 

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さて、次は何観ようかな。