映画を観て、想うこと。

『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』を観て。

プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命 2012
【原題】The Place Beyond the Pines
【監督】デレク・シアンフランスDerek Cianfrance

 

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"Do you remember my name?"
「私の名前覚えてる?」

 

移動遊園地のバイクショーでスタントマンとして生計を立てていたルーク(ライアン・ゴズリング)は、久々に訪れた町でロミーナ(エヴァ・メンデス)と再会する。彼女は密かにルークの子供・ジェイソンを出産し育てており、新しい恋人・コフィ(マハーシャラ・アリ)と共に暮らしていた。その日暮らしの生活を送っていたルークだったが、息子のためには実の父親が側にいてやる必要があると決意し、ロミーナに一緒に暮らすことを提案するも、「夢のような話」と断られてしまう。二人を養うだけの稼ぎがないことが原因と断定したルークは、自らのバイクの腕に頼り、遂には銀行強盗に手を染めてしまう。そんなある日、犯行を終え逃走するルークを警察官・エイヴリー(ブラッドリー・クーパー)が民家に追い詰める。この運命の交錯により生じた因果は15年後、彼らの息子たちにも受け継がれることとなる。

 

"You got a kid? You want to provide for that kid? You want to edge out your competition? You got to do that using your skillset. And your skillset...very unique."
「子供がいるんだろ。金が要るんだろ。邪魔な後釜の男を蹴散らしたいだろ。自分の才能を使わない手はない。お前の腕前は・・・特別なものだ。」

 

用事の合間にできた時間を潰すため、たまたま立ち寄った〇ックオフで本作と出会った。タイトルすら知らなかった作品だったが、パッケージが目に留まり、ライアン・ゴズリングブラッドリー・クーパーが共演する犯罪(クライム)サスペンスと知れば、もう疑う余地はない。滅多にしないジャケ買い/衝動買いをし、帰宅後即観賞。結果、作品の持つ重厚感に圧倒され得も言われぬ満足感で満たされた。「なぜ今まで出会わなかったのだろう?」とむずがゆいセリフまで頭に浮かんでしまうほど、本作に惚れてしまった。こういう出会いがあるから、映画発掘(ブッ〇オフ巡り)は楽しい。

 

作品を引っ張っていたのは、やはりライアン・ゴズリング、この人だった。彼の演じたルークという男の刹那的な生き様が物語前半をリードする。大胆さと繊細さが共生する危ういけどどこか憎めない内面に、甘いマスク、鍛え上げられた肉体、全身に広がるタトゥー、赤いジャケット、そしてバイクという要素が加わり、クールでカッコいい、印象的なアウトローとして完成されていた。そんな個性的なキャラクターを支えていたのが、堅実な警察官エイヴリーを演じたブラッドリー・クーパーだ。その真面目さ故に苦しむことになる警察組織内での葛藤が物語中盤を盛り立てる。犯罪者と警官、この対照的な二人には「幼い息子の父親」であるという共通点があり、物語の終盤、父親たちの生き様は息子たちの人生にも影響を与えることになる。

 

"We do what we do."
「お互い役割を果たすまでだ。」

 

物語は15年の時を超えて父親同士の因縁を息子たちが引き継ぐ形で展開する。苦しみ、もがき、葛藤するも、本作のラストは意外にも清々しさすら感じるような終わりを迎える。それはきっと彼ら息子たちが、背負った宿命に「抗(あらが)わない」という選択を自らの意志でするからだろう。その潔さに託されたメッセージはこの物語の完結のさせ方に相応しいように感じた。

 

本作の邦題に付け足されている「宿命」というキーワード。避けられない運命的なものに、人は抵抗を感じてしまうことがある。「決められた人生」、「敷かれたレール」、そんなこと言われたら抗いたくなっちゃうに決まっている。宿命は性分とも似ている。人の考え方は変えられても、性分までは変えられない。でも、変えられないものに抗いたくなっちゃうのもまた人間の性分なわけで・・・(はぁ~難しいね~)。

 

悩み抜いた末の結論は、本作に登場する二人の息子たちのように「抗えないのなら、進んで受け入れる」だと思った。「パンが無ければ、お菓子を食べればいいじゃない」くらい「それが出来たら苦労しないわ!」的な答えだが、余計なことは考えないようにすることも大切、これは負けでも妥協でもない、一つの前向き選択なのだと思う。これが一番簡単で、一番難しい(はい矛盾してますね)。

 

"If you ride like lightning, you're going to crash like thunder."
「稲妻のように走れば、雷のように砕け散るのみ。」

 

物語の舞台、ニューヨーク州“スケネクタディ”はモホーク族(北アメリカの先住民族)の言葉で「松林(pines)の向こう側」という意味らしい(本作の重要な場面で度々松林が象徴的に登場する)。原題も邦題も中身も、秀逸な傑作だ。

 

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さて、次は何観ようかな。