映画を観て、想うこと。

『世界一キライなあなたに』を観て。

世界一キライなあなたに』 2016
【原題】Me Before You
【監督】テア・シャーロック(Thea Sharrock)

 

 

"You only get one life. It's actually your duty to live it as fully as possible."
「一度の人生。精一杯生きるのが人の務めだ。」

 

イギリスの田舎町に住むルー(エミリア・クラーク)は、働いていたカフェの閉店に伴い新たな職を探す必要に迫られる。やっと見つけた仕事は、交通事故で四肢麻痺になり車いす生活を余儀なくされた元青年実業家ウィル・トレイナー(サム・クラフリン)の介護と話し相手になるというものだった。契約期間は6か月、生きる希望を失い、心を閉ざしたウィルに生きる気力を取り戻してもらえるよう、ルーは持ち前の明るさを武器に奮闘する。

 

"I just want to be a man who has been to a concert with a girl in a red dress. Just a few minutes more."
「赤いドレスの女の子とコンサートに行った男でいたいんだ。もう少しの間だけ。」

 

本作は自分が知る限り、観る前の予想を最も覆された一作である。一見、美女とイケメンが、嫌い同士から徐々に距離を縮め恋に落ちる純愛を描いているように想像させられる邦題とDVDのパッケージだが、そんな予想とは裏腹に、作品が扱うテーマは重たく、複雑だ。皆さんは「自殺幇助(ほうじょ)」という言葉をご存じだろうか。辞書には「別の人、時には医師の助けを借りた自殺」と説明がある。聞き慣れない言葉だが、海外には実際に裁判所や医師と連携したうえで自殺幇助を提供する団体が存在する。

 

「愛の力は人を絶望の淵から救うことができるのか」、本作が問いかける難題である。重たいテーマを担ってはいるが、不思議と作風は明るく、温もりがある。主人公ルーの底抜けの天真爛漫さ、健気で献身的な姿が作品全体の雰囲気を明るく支配している。そんな彼女と出会う、生きることに絶望したもう一人の主人公ウィル、彼の中で変わっていくところと、変わらないところ。これが本作の最大の見どころであり、我々への問いかけだろう。物語の行く末と共に、是非本作を観て、この難題に向き合ってみてほしい。

 

"I get that this could be a good life. But it's not my life. It's not even close."
「きっといい人生になると思う。でもそれは違いすぎる。僕の人生じゃない。」

 

正直、こんなに躊躇いながら文章を書いたことはない。触れるべきか迷ったが、ただ、どうしても今、この瞬間に抱いている想いが消えないうちに、起きてしまった出来事と向き合いたいと思う。2022年5月11日、お笑いタレントであるダチョウ倶楽部の上島竜平さんが、自殺された。著名人の自殺が後を絶たない中で、この人の訃報には大きな喪失感を覚えた。「絶対押すなよ~!」、「じゃあ、俺がやるよ。・・・どうぞどうぞどうぞ。」、「くるりんぱっ!」、生前の元気な姿を思い出すと、「あの人はもうこの世にはいないんだなぁ・・・」と寂しさが込み上げてくる。

 

以前、誰かが書いた何かの記事で次のような言葉を読んだことがある(何もかも曖昧ですいません)。

「人は誰かの役に立っていると感じるとき、生きている喜びを感じる。逆に、人は他人に迷惑をかけてまで生きたくないと思ってしまう。」

「人様に迷惑をかけるな」と教育されている人が多いせいか、日本人は他人に迷惑をかけてしまうことに弱い。また、集団生活の中で「自分は何の役にも立っていない」と卑屈になってしまう人も多いように思う。この「後ろめたさ」が個人の内面に隠れてしまった時、周囲の人が予期せぬ悲しい決断が下されてしまうのかもしれない。

 

でも、「迷惑をかけている」ではなく「頼っている」と言い換えることができたなら。誰かに助けてもらう自分を受け入れられたなら。「迷惑をかけてしまったな」で終わらないために「ごめん」と「ありがとう」が言えたなら。そして、持ちつ持たれつ、助け合いながら乗り切るのが人間なんだから、世の中には「助けられる人」も必要なのだと思えたなら。他人も、自分も、受けいれて、愛してあげないといけない。

 

"You can't change who people are."
「他人を変えることはできないんだ。」

"Then what can you do?"
「じゃあどうすればいい?」

"You love them."
「愛することだ。」

 

「本当に好きな芸人、好きな後輩が、一番嫌いな死に方をした」。上島さんの自殺に対しての明石家さんまさんのコメントが胸に刺さった。どれほど苦しんでいたかがわからない以上、生きてほしかったと願うのは他人のエゴかもしれない。でもやっぱり、どんな理由があったとしても、この死に方はキライだ。

 

 

難しい。本当に、難しい。