映画を観て、想うこと。

『トップガン マーヴェリック』を観て。

トップガン マーヴェリック』 2022
【原題】Top Gun: Maverick
【監督】ジョセフ・コシンスキー(Joseph Kosinski)

 

 

“I don’t like that look Mav…”
「気に入らない目つきだな・・・」

“It’s the only one I got…”
「普段と同じさ・・・」

 

1986年公開の『トップガン』から36年ぶりに制作された続編。海軍大佐ピート・“マーヴェリック”・ミッチェル(トム・クルーズ)は、米海軍のパイロットとして輝かしい戦績・功績を残しつつも、昇進を避け続け、問題を起こしては左遷されることを繰り返し、未だ現役パイロットとして空を飛んでいた。そんな彼は、ある任務のため再びトップガンアメリカ海軍エリート・パイロット養成学校の通称)に戻ることを命じられる。しかし、上官からの説明を聞いたマーヴェリックは、自分がパイロットとしてではなく、パイロットを育てる教官としてトップガンに呼び戻されたことを知るのだった。

※「マーヴェリック(Maverick)」は主人公ピート・ミッチェルのコールサイン(部隊内の愛称)、英語で「異端児」の意。

 

“Just a little push.”
「もう一押し。」

 

映画館でしか味わえない至福の体験だった。終始鳥肌は立ちっぱなしで、映画館を出てもしばらく興奮が冷めなかった(いや、今もなお興奮し続けている)。思わずおかわりが進んでしまい、人生で初めて3回も映画館に観に行った作品になってしまったほど、本作を観終わった後に残る高揚感は病みつきになる。本作は間違いなく、続編として大成功を収めた一作として語り継がれることになるだろう。オリジナル(1作目『トップガン』)公開時(1986年)は生まれていなかった筆者にとって、この続編を映画館で体験できたこともまた幸運なことだったと感じる。

 

冒頭で流れる“♪Top Gun Anthem”の鐘の音とエレキギターの旋律、映画館内に流れる荘厳な雰囲気に、思わず席に座り直し姿勢を正させられる。続いて、あの有名なテーマソング、ケニー・ロギンスの“♪Danger Zone”と共に戦闘機が空母に発着する映像が流れる。音楽と映像で一気に作品に引き込まれてから待ち受けるのは、熱い人間ドラマとリアルな戦闘機アクション。前作を観ていなくても(現に筆者もほとんど内容を忘れていたが)楽しめるように配慮された丁寧な説明と設計。往年のファンも、イチゲンさんも、誰でも楽しませることのできる名作になっている。

 

“The end is inevitable, Maverik. Your kind is headed for extinction.”
「終わりは必然だ、マーヴェリック。パイロットはいずれいらなくなる。」

“Maybe so, sir. But not today.”
「そうかもしれません。でも今日じゃない。」

 

「戦闘機って、こうやって戦うのか!?」と、ドッグファイト(空中戦)のシーンでは度肝を抜かれた。急上昇/急降下/急旋回する機体、敵機の照準を外そうと奮闘するせめぎ合い、発射されたミサイルを回避する操縦など、驚くほど臨場感のある映像はアメリカ海軍の協力なしには実現できなかったに違いない(前作の時と同様、海軍への志願者は急増すること請け合いだ)。そんなリアルにさらに加わるのが、役者たちが体当たりで挑んだ演技というリアルだ。

 

本作で役者たちは実際に戦闘機に乗って演技をしている。このリアルさがしっかり観客に伝わっていることが本作の優れている点だ。戦闘機での飛行は時に10Gという圧力がパイロットの体にかかる(あまりピンと来ないかもしれないが、作中での説明曰く、「まるで象に乗られているよう」とのこと)。尋常ではない状況下での役者たちの演技は、「10Gを感じているような演技」ではなく「10Gを感じながらの演技」である。肺が押しつぶされ、脳に血液が行かなくなり、顔がゆがみ気絶しそうになるのを必死で耐えている姿が作品に刻み込まれているから、その緊迫感はスクリーンを通して観客にも伝わってくる。観終わった後、アゴに残った疲労感から、自分も作品を観ながらずっと歯を食いしばっていたことを、自分もこのリアルを体験していたことに気付く。

 

“It's not what I am, it's who I am.”
「僕にとって仕事ではない、僕そのものなんだ。」

 

山本五十六(いそろく)が残した次の有名な格言がある(筆者の好きな言葉である)。

「やってみせ 言って聞かせて させてみて ほめてやらねば 人は動かじ」

人を育てるうえで、まず初めにすべきことは手本を見せてやること。本作は「やって見せる大人」として、トム・クルーズという俳優とマーヴェリックという役(キャラクター)が見事にシンクロしている。

 

若くて優秀なパイロット、エリート中のエリートたちが集められて行われる訓練で、教官マーヴェリックは彼らを圧倒する操縦技術を見せつける。「若造、10年早いぜ」と言わんばかりに、自らの能力と行動で部下たちの訓練を引っ張る教官マーヴェリックの姿に、何度も「Nice…(い~ねぇ)」(作中、モニカ・バルバロ演じる“フェニックス”が呟くセリフ)と心の中で呟いていた。行動で示すことの大切さ、粋さ、魅力を教えられた。

 

そんなマーヴェリックを演じるトム・クルーズもまた行動で引っ張る男だ。今年(2022年)で60歳を迎えた彼の映画製作に対する熱意、アクションに対する熱意は本物だ。無人機の開発で絶滅寸前の戦闘機パイロットも、CGなどの撮影技術の進歩で絶滅寸前のアクション俳優も、絶滅危惧種かもしれないが、今日は滅びない。どんなスタントも自らこなすことで有名なトム・クルーズの眼が黒いうちは、この迫力が映画から廃れることは無いと確信できる。トムにとってアクション俳優とは職業ではなく、彼そのものだから。作中で何度も登場する以下のセリフは、トム自身が体現して見せてくれている。

 

“Don’t think. Just do.”

「考えるな。行動しろ。」

 

本作の見どころをもう一つ。役者陣全員、歯並びがキレイで真っ白です(笑)もうキラッキラしてんだから!!

 

 

さて、次は何観ようかな。