映画を観て、想うこと。

『フリー・ガイ』を観て。

フリー・ガイ』 2021
【原題】Free Guy
【監督】ショーン・レヴィ(Shawn Levy)

 

 

“Don’t have a good day. Have a great day.”
「ただのいい日ではなく、素晴らしい日を。」

 

ガイ(ライアン・レイノルズ)は「サングラス族」が支配する街「フリー・シティ」に暮らす真面目な銀行員。毎朝規則正しく目覚め、ペットの金魚に挨拶し、同じ制服を着て、同じコーヒーショップでコーヒーを注文し、銀行を訪れる人に同じ言葉で挨拶をし、いつも通り、銀行強盗に合う。毎日が同じことの繰り返し、今日もまた変わらぬ一日になるはずが、ガイは一人の「サングラス族」の女性ミリー(ジョディ・カマー)に一目惚れをする。理想の女性との出会いと、「サングラス族」から拝借したサングラスをかけたことによって、ガイは「ただの人」から脱却していく。

 

“This isn’t you, you don’t do this.”
「どうかしてる、お前のやることじゃない。」

“Maybe I do.”
「やってみなきゃ。」

 

「面白かった」より「楽しかった」という感想が似合う本作。あらすじを読んだだけでは「何のこっちゃ??」かもしれないが、主人公のガイが暮らす「フリー・シティ」がオンラインゲームのタイトルであると知れば、突飛に感じるあらすじも少しは飲み込めてくるのではないか。しかも、主人公のガイはゲームの中のNPC(Non Player Character)、いわゆる「モブキャラ」であることが本作の特筆すべき点だ。モブキャラ(和製英語、モブ(mob)は英語で「群衆」の意)、RPGロール・プレイング・ゲーム)でいう村人、ドラマや映画でいうエキストラ、名前すらつかない脇役、だから主人公の名前もガイ(Guy:男)。注目されない「その他大勢」の一人が覚醒していく展開には爽快感がある。

 

仮想世界(ゲームの中の世界)と現実世界を行き来しながら物語は展開する。ゲームの中の世界は、とにかく何でもありでハチャメチャ。キレイな街並みの中で、毎日犯罪が横行し(ゲームだから)、銃弾が飛び交い(ゲームだからね)、モブキャラはないがしろにされたり腹いせの被害に遭いながら生活している(ゲームだからだよ)。かたや、現実世界ではゲームをプレイする様々な世代の人々に加え、ゲームの開発者、ゲーム会社の社長、ゲーム実況をするユーチューバーが、モブキャラ・ガイの予期せぬ動向を見守る。常識から外れているはずのゲームの世界で、プログラム通りに動かないガイの(プログラム的に)非常識な行動に「おい、何やってるんだ!?」と目くじらを立てるプレイヤーたちの姿がおもしろおかしい。

 

“And even if I’m not real, this moment is. Right here right now. This moment is real. I mean, what’s more real than a person trying to help someone they love? Now, if that’s not real, I don’t know what is.”
「俺がリアルじゃなくても、この瞬間はリアルだ。今この時この場にある。この瞬間はリアルだ。愛する者を助けようとすることがリアルじゃないなら、俺には何がリアルかわからない。」

 

「サングラス族」、これまた意味不明に聞こえるが、本作においては大事な概念だ。ゲーム内のキャラクターは「サングラス族」と「それ以外」に分かれている。サングラスをかけているキャラクターは、実際に現実世界で人(プレイヤー)が操作しているキャラクターで、サングラスをかけていないキャラクターは設計されたプログラム通りに動くキャラクターだ。このサングラスというアイテムの描き方が上手い。かけたとたんにレベルやアイテムが出現し、ゲームの世界をうまく渡っていけるようになる。世界自体を変えるのではなく、世界の見え方を変えてくれる。そんな特殊アイテムは我々の日常にもある気がする。気分を変えてくれる服やカバン、気合が入る時計やアクセサリー、自分にスイッチを入れてくれるモノは誰にでもあるのではないだろうか。

 

仮想世界を描く作品の中には、その魅力や誘惑に負け、行ったきり帰って来ないものも多い。でも、本作は結末でちゃんと現実世界に帰ってくる。しかも、「現実逃避してないで現実を見ろ!」みたいな説教臭さはなく、やっぱりリアルって素敵だよねと諭すように着地するラストが、清々しく、爽やかで、前向きな気持ちにさせてくれる。温かく、強く、背中を押された感覚が観終わった後も残っている。

 

“I’m just a love letter to you. Somewhere out there is the author.”
「僕は君へのラブレターだ。書いた人は外の世界にいる。」

 

生きる世界や他人との比較で感じる「現実」より大切なのは、他人を気に掛ける自分の「リアル」な気持ちなんだな~。そんなことを考えながら、本作のテーマソング、マライア・キャリーの“♪Fantasy”が今も頭の中で流れていることに気付いた。

 

 

さて、次は何観ようかな。