映画を観て、想うこと。

『ノーカントリー』を観て。

ノーカントリー No Country for Old Men, 2007
監督ジョエル・コーエン(Joel Coen)、イーサン・コーエン(Ethan Coen)

 

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“You can’t help but compare yourself against the old-timers. Can’t help but wonder how they’d have operated these times.”
(「つい先人たちと自分を比べてしまう。彼らならこの時代の事件をどう扱っただろう、と。」)

 

「昔は平和だった」と嘆くベテラン保安官のナレーションとともに始まる本作。「昔の保安官は銃すら携帯していなかった」、「最近の犯罪傾向は理解できない」、この作品を観終わったあと、このナレーションの内容が走馬灯のように蘇り、妙に納得してしまう。

 

主要キャラクターは3人、麻薬取引が拗れた現場から大金を盗み帰ってしまうベトナム帰還兵のモス(ジョシュ・ブローリン)、その大金を取り返すべく雇われた殺し屋シガー(ハビエル・バルデム)、それを追う保安官ベル(トミー・リー・ジョーンズ)。彼らが繰り広げる追跡劇/逃亡劇とその途中で起きる惨劇にハラハラさせられつつ、物語はそれぞれの視点に切り替わりながら進む。

 

“What’s the most you ever lost on a coin toss?”
(「賭けに負けて大損したことはあるか?」)

 

本作の一番の見どころは何と言っても、フラっと立ち寄ったガソリンスタンドの店主にこんな問いかけをする殺し屋シガー、ハビエル・バルデムの演技。何を考えているかわからない、何をしでかすかわからない、被弾してもひるまない姿はターミネーターの様であり、無表情で人を手にかける非情な姿は死神の様でもある。異彩を放つ風貌(おかっぱ頭、黒い服、ほとんどまばたきをしない暗い眼光)に加え、使う武器もまた独特。家畜を殺すためのボンベ付エアガン、サイレンサー付の散弾銃。こんなヴィラン(悪役)は見たことがない。他の映画の悪役とは一味違う悪役に仕上がっている。

 

“You shouldn’t be doing that. Even a young man like you.”
(「こんなことしちゃいけないよ。いくら若い男だからと言って。」)

“Doing what?”
(「何を?」)

“Hitchhiking. Dangerous.”
(「ヒッチハイクさ。危険だね。」)

 

なぜかこのセリフが頭に残った。殺し屋から逃げるためヒッチハイクをしたモスを拾った黒人ドライバーが言うセリフ。神妙な顔でスーツケースを抱きかかえている自分を見て、きっとヤバい奴から逃げているのだと気づき言ったのかと思えば、そんなことが起きているとは微塵も思っていないで、まるで若い女性に注意するように言うこのセリフ。彼もまた老人だ。保安官のベル同様、この映画に出てくる老人は皆良識があり、逆に若者は皆どこか不安定に見える。この映画の原題になっているように、良識のある老人の住む国ではもはやないのかもしれない

 

ここ数年、ニュースで目にする犯罪や事件がどんどん過激になっている気がする。個人的には子供に対する虐待が増えたと感じる。悪化する一方の犯罪傾向は、自分が老人になるころにはどうなってしまっているのだろう。想像するだけで、悲しいことに、この映画と同じくらい恐ろしい。

 

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さて、次は何観ようかな。