映画を観て、想うこと。

『AIR/エア』を観て。

AIR/エア』 2023
【原題】Air
【監督】ベン・アフレックBen Affleck

 

 

“I don’t want to sign three players. I want to sign one. Him.”
「3人となんか契約したくない。1人でいい。彼だ。」

 

1943年、ナイキはランニングシューズにおける成功とは裏腹に、バスケットボール部門でのシェア獲得に苦戦していた。ライバル社のコンバース(54%)、アディダス(29%)に比べ、ナイキは17%しかシェアを獲得できておらず、バスケ部門は廃止目前の状況だった。そんなバスケ部門のスカウト担当だったソニー・ヴァッカロ(マット・デイモン)は、来季のスポンサー契約選手を決める会議で、3選手に分配されるために確保された予算25万ドルを一人の選手に全額投じることを提案する。その選手とは、ソニーが目を付けた新人、マイケル・ジョーダンだった。

 

“He doesn’t wear the shoe. He is the shoe. The shoe is him.”
「彼が靴を履くんじゃない。彼こそが靴なんだ。靴が彼を象徴するんだ。」

 

エア・ジョーダン”という伝説的スニーカーの誕生秘話を描いた本作は、結末を楽しむ映画というよりは、過程に焦点を当てた作品と言える。マイケル・ジョーダンという誰もが知るバスケット選手、その彼の名前が冠せられ、やがてストリートファッション/カルチャーにまで影響を与えることになる、彼を象徴するバスケットシューズ(バッシュ)が如何にして生まれたのか。よくよく考えれば誰も気にしたことが無かった物語に、ベン・アフレック(本作監督、ナイキ社々長フィル・ナイト役)とマット・デイモンの黄金コンビが挑む。ナイキが負け犬だった時代、マイケル・ジョーダンが無名だった時代の出来事を、その後どうなるかを知る現代の我々が見ているという面白さがたまらない。

 

“A shoe is just a shoe. Until someone steps into it.”
「靴はただの靴だ。誰が履くかに意味があるんだ。」

 

「熱い」映画だった、というのが観た直後の率直な感想だった。本作にマイケル・ジョーダンは登場しない(ちらっと画面の端に写る程度に留まっている)。この物語がフォーカスするのはジョーダンの「周りにいた人々」。あえてジョーダンを隠したことで本作はより熱さが増したように思う。ジョーダンの戦いは本作を観なくても知れるが、周りにいた人々の戦いは違う。彼らにフォーカスしたことで、本作はありきたりなサクセスストーリーとは一味違う熱気を帯びている。

 

なぜ、彼らの生き様を「熱い」と感じたのか。それは、彼らが「根拠のない自信」と、それを信じる「覚悟」を持っていたからだろう。どう転ぶかはわからないけど、信じてみる。こういった姿勢が歴史や文化を作ってきたのだと、自分もこの映画を観て確信できる、そういう映画のように思えた。とはいえ、そう簡単に人の信頼を勝ち取ることはできない。だから説得する、本作の登場人物たちのように、言葉と行動で。

 

"How did you come to that solution?”
「なぜ決断できたんだ?」

"I went for a run."
「走ればわかる。」

 

作品終盤、交渉の最終局面でナイキ社からジョーダン一家に向けたプレゼンは、いつしかソニーからマイケルに向けたスピーチに変わる。この数分のスピーチに込められた熱量に、得も言われぬ高揚感と奮い立つ感覚を覚えた。また、スピーチに合わせて流れるフラッシュバック映像が、ソニーが発する言葉たちに更なる重みを乗せる。彼らにとってはマイケルに待ち受ける未来であり、我々にとってはマイケルが辿ってきた過去でもある。このワンシーンに出会うだけでも、本作を観る価値が十分にある。

 

“You are Michael Jordan, and your story is gonna make us want to fly.”

マイケル・ジョーダン、君の物語は人々を飛び立たせるんだ。」

 

データやエビデンス(根拠)が重んじられ、人がAIに取って代わられようとしている世の中になってしまったが、人の持つ「直感」、「根拠のない自信」、「熱意」といった不確かなものを、甘く見てはいけないように思う。

 

 

さて、次は何観ようかな。