映画を観て、想うこと。

『アンブロークン 不屈の男』を観て。

アンブロークン 不屈の男 Unbroken, 2014
監督アンジェリーナ・ジョリーAngelina Jolie)

 

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“Love thine enemy.”
(「汝の敵を愛せ。」)

 

イタリア系移民の子供であったルイ・ザンペリーニ(ジャック・オコンネル)は少年期を問題児としてアメリカはカリフォルニア州トーランスで過ごした。盗み、ケンカ、飲酒、喫煙に明け暮れる日々。町の警官も手を焼く彼は足が速かった。彼の才能は実の兄に見いだされ、ルイは1936年のベルリンオリンピックに出場するほどの選手になる。そんなオリンピック選手の人生にも戦争の影は押し寄せる。第二次世界大戦中、ルイはアメリカ軍の空軍爆撃手となる。ある日、搭乗した機体の故障により、太平洋に不時着するも、そこから彼の過酷な生き残りをかけた戦いが始まる。47日間の漂流、日本軍捕虜収容所での生活。次々と彼の人生を襲う過酷な試練に、彼は不屈の精神で立ち向かう。

 

“You are enemy of Japan. You will be treated accordingly.”
(「諸君は大日本帝国の敵だ。そのように待遇する。」)

 

アンジェリーナ・ジョリーが監督を務めた(本人は出演していない)、ルイ・ザンペリーニ氏の伝記を映画化した本作。幼少期、オリンピック、空中戦、47日間の漂流、大森/直江津捕虜収容所、一難去ってまた一難の数々の苦境を乗り越え、それでも彼は挫けなかった。彼がいかなる試練を耐え忍び、乗り越えてきたかが描かれた重厚な作品になっている。監督のザンペリーニ氏に対する敬意が伝わってくる演出と、主演のジャック・オコンネルの繊細な演技により、どうしても暗くなりがちな戦争を題材にした本作に一途の希望の光を見せてくれる。

 

“You are like me. We are both strong. I saw it in your eyes the first day, I thought this man will be my friend. But, enemy of Japan.”
(「お前は私と似ている。お互い意志が強い。最初に会った日からお前の目を見て分かった。こいつは私の友達になれると。だが、日本の大敵にもなると。」)

 

この映画の大きな見どころの一つがルイを捕虜収容所で虐待する渡辺軍曹を演じた、世界的に活躍する日本人ミュージシャン(ギタリスト)のMIYAVIさんの演技である。儚げで繊細、冷徹で凶暴、そして美しい。シンプルな悪役ではなく、「彼はいったいどういう人間だったのか?」と、観る人にキャラクターの裏を考えさせられる素晴らしい演技。原作(本)で渡辺軍曹は”beautifully crafted monster(美しく創られた怪物)”と表現されているとのこと。MIYAVIさんの演技は正に原作のその表現を再現している。敗色濃厚な戦況の中、敵国の捕虜を管理する任務を担っていた渡辺軍曹。収容所の統制を保たねばならないというプレッシャー、敵国の兵士に対する憎しみ、彼を精神的に不安定にしていたあらゆる要素と彼の葛藤、不安、怒りを想像せずにはいられない。

 

“A moment of pain is worth a lifetime of glory.”
(「苦しみは一瞬、それが一生の栄光を生む。」)

 

自らの受けた仕打ちを赦し、敵を愛し、相手の苦しみに共感する心は何より高尚な精神だと思う。彼のこの不屈の精神はマラソン競技を通して培われたスポーツマンシップと、兄のこの言葉によって築かれたものだと思う。

 

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さて、次は何観ようかな。