映画を観て、想うこと。

『月に囚われた男』を観て。

月に囚われた男 Moon, 2009
監督ダンカン・ジョーンズ(Duncan Jones)

  

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“Lunar Industries remains the number one provider of clean energy worldwide due to the hard work of people like you."
「我々ルナ産業は君たちのような熱心な従業員のおかげで世界一のクリーンエネルギー供給会社としての立場を確立している。」

 

そう遠くない未来、人類は地球の資源を使い果たし、新たなエネルギー源を月に求めていた。月の裏側で採掘される核燃料ヘリウム3を採掘するため、地球一番のエネルギー供給会社であるルナ産業から月に派遣されていたサム・ベル(サム・ロックウェル)は孤独と戦いながら日々業務にあたっていた。相棒は人工知能のガーティ(声:ケビン・スペイシー)のみ、衛星の不具合により地球との交信は録画したメッセージのやり取りに限られていた。そんな最悪の職場環境での契約期間は3年、満了まで残り2週間と迫ったある日、サムは不注意で起こした事故をきっかけに不可解な事実に気付きはじめる。

 

“That’s enough. That’s enough. I want to go home.”
「もういい。たくさんだ。うちに帰りたい。」

 

想像してみた。ある日、いつも通り出勤した会社のオフィスで上司に呼ばれ、こう言われる。

「○○君、キミに転勤の辞令が出た。来月からちょっと「月」まで行ってもらうことになった。他に誰もいない職場みたいだから気楽にやってよ。大丈夫、身の回りの世話をする人工知能ロボットを付けるし、3年経ったら必ず呼び戻すからさ。それにしても、結婚したばっかで子供も小さいのに、転勤先が大気圏外なんて、君も「ツキ」に見放されたね、・・・なんちゃって。」

転勤先が地方や海外ですら戸惑うのに、「月に行け」と言われた日には、もう目の前は既に宇宙空間さながらの真っ暗闇、足の感覚はまるで無重力空間にいるかの如く消え失せ、膝から崩れるに違いない。

さらに想像してみた。では、どんな条件であれば行くと決断するだろう。人は働く際、必ず何かしらの形で「見返り」を求めている。給料のため、昇進のため、罪滅ぼしのため、あるいは「世のため、人のためになっている」というやりがいや大義名分のため。いずれも、その仕事に従事することで自分自身に返ってくる「何か」を期待するから、人は大変な仕事でも頑張れるのだと思う。この「大変さ」と「見返り」の均衡が崩れた時、人は「やってられるか!」と仕事を投げ出すことになる。本作の主人公サムは実に2年11か月と2週間もの間、愛する家族と離れてすらこの均衡を保ったのだ。さて、彼にはどのような見返りがあったのだろう。

 

“I’m here to keep you safe, Sam. I want to help you.”
「サム、僕の役目は君を守ることだ。君を助けたい。」

 

月でサムの唯一の話し相手となるのが、人工知能のガーティである。名優ケビン・スペイシーが声だけの出演とは、何と贅沢なことかと驚いてしまうが、ガーティについてもう一つ印象的なことがある。それは、この人工知能が「情」に動かされているという点だ。開発元であるルナ産業の利益のために従順になるようプログラミングされているのかと思いきや、最後までサムに対する従順さを見せる。いずれAIが人類を滅ぼす時が来るといった都市伝説も耳にするが、優秀な人工知能はあるいは人類の味方になってくれる可能性もないだろうか。AIやロボットに取って代われない人間にしか生み出せない価値や、人間にしか担えない役割を見定め、大事にしていきたいものだ。

 

余談だが、我々は普段月の同じ面(オモテ面)しか見ていないらしい(月の自転と公転が同期しているため、地球には常に同じ面しか向かないため)。ひょっとしたら、我々には見えていない月の裏側で、今も誰かが汗水たらして働いているのかもしれない。そんなことを想像すると、今後月を見上げるたび、「キレイだなぁ」とつぶやくのではなく、「ご苦労さまです!」と叫びたくなる。

 

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さて、次は何観ようかな。