映画を観て、想うこと。

『ノクターナル・アニマルズ 夜の獣たち』を観て。

ノクターナル・アニマルズ 夜の獣たち Nocturnal Animals, 2016
監督トム・フォード(Tom Ford)

 

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“FOR SUSAN”
(「スーザンに捧ぐ」)

 

アートギャラリーのオーナーであるスーザン(エイミー・アダムス)のもとに、ある日突然、20年前に別れた元夫のエドワード(ジェイク・ギレンホール)から郵便が届く。その中身は、彼女に捧げられた”Nocturnal Animals”と題された小説、彼の著書だった。才能に限界を感じて別れた元夫の渾身の一作は暴力的で、衝撃的で、傑作だった。彼はなぜ小説を送ってきたのか。この行為は未練なのか、復讐なのか。物語を読み進めるにつれて、彼女は愛想を尽かしたはずのエドワードに再び惹かれ、彼との再会を望むようになる。

※Nocturnal:夜行性、夜の、夜間の

 

“Why are you so driven to write?”
(「なぜそんなに書きたいの?」)

“I guess it’s a way of keeping things alive. You know, saving things that will eventually die. And if I write it down, then… it’ll last forever.”
(「物事を生かしておくためさ。いずれは死にゆくものを救いたい。僕が書くことで永遠に生き続けるから。」)

 

本作の監督であるトム・フォード、どっかで聞いたことがあると思って調べてみた。そう、あのファッションブランド”TOM FORD”の生みの親である。ファッションデザイナーが撮った映画と油断することなかれ。むしろ、流石はファッションデザイナーが撮った映画と称賛すべき点が多い。特に色彩や登場人物が身にまとう衣装は、観ていて「きれいだな~」と目を奪われてしまう。芸術的な観点のみならず、この映画は内容や物語のプロット(筋書き)もしっかりしていて見応えがある。物語は「現在」、「振り返る過去」、「スーザンが読む小説の中」と3場面で構築されているが、それぞれの出来事が所々でリンクし、影響し合っていることがわかる。本作が監督作2作目とは思えない。

 

“Just wait. We all eventually turn into our mothers.”
(「見てなさい。娘はみんな母親のようになるのよ。」)

 

小説家としての才能が無いと妻に見限られた元夫が、20年かけて執筆した小説で復讐するというオシャレな復讐劇、怒りや憎しみが生むパワー、執着心、推進力はすさまじいものだ。が、一見ただの元夫から元妻への仕返しに見える内容は、実はそんなに単純なものでもない。カギとなるのはやはりスーザン、彼女の本質にある。両親を軽蔑しているスーザンに対してスーザンの母親が語りかけるこのセリフで色々なことを考えさせられる。人は自分が「こうありたくない」という人と自分がそんなに変わらないことに気付けていないときがある。自分の本質を見抜けていないスーザンの姿は虚しい。

 

“Well, when you love someone, you work it out. You don’t just throw it away. You have to be careful with it. You might never get it again.”
(「誰かを愛したなら、努力すべきだろ。簡単に投げ捨てるなよ。大切にしろよ。失えば二度と戻らないかもしれないんだぞ。」)

 

「あなたにとって大切なものは何ですか?ちゃんと見極められていますか?それ、今ないがしろにして捨てようとしてませんか?大切なものは大切にしないと取り返せなくなりますよ。」と警告されているように感じた。

 

まだ本作を観ていない人に警告したい。冒頭4分は我慢して観ていただきたい(きっと「何じゃこりゃ」と不快になりますが、そこは我慢です)。それから、間違っても付き合いたてのカップルが週末に観る映画ではない。「ねぇねぇ、久々に映画観ない?ほら、あのブログで紹介されてた『ノクターナル・アニマルズ』観ようよ」となっても、責任は負いかねます。

 

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さて、次は何観ようかな。