映画を観て、想うこと。

『インセプション』を観て。

インセプション Inception, 2010
監督クリストファー・ノーラン(Christopher Nolan)

 

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”She was possessed by an idea. This one very simple idea that changed everything. That our world wasn’t real.”
(「彼女はある考えに取りつかれていた。その単純な考え(アイディア)がすべてを変えてしまった。我々の世界は現実ではないと。」)

 

コブ(レオナルド・ディカプリオ)は他人の夢の中に侵入し、その人の潜在意識から機密情報を盗み出す産業スパイ。彼は相棒のアーサー(ジョセフ・ゴードン=レヴィット)と挑んだ仕事に失敗するが、その仕事のターゲットであったサイトー(渡辺謙)から新たな仕事を持ちかけられる。それは、他人の潜在意識から情報を抜き取るのではなく、あるアイディアを植え付ける(インセプション)という依頼であった。国際指名手配中で国を追われていたコブに、サイトーは仕事の成功と引き換えに過去の犯罪歴を帳消しにし、彼の子供たちの待つ母国に帰国させることを約束する。失った人生を取り戻すため、コブは仲間を集めチームを結成し、綿密な計画を立て、無謀とも思える仕事に挑むのだった。

 

”They come here every day to sleep?”
(「彼らは眠るために、毎日ここへ来るのか?」)

”No, they come to be woken up. The dream has become their reality.”
(「いや、彼らは目覚めに来ている。彼らにとっては夢の中が現実なんだ。」)

 

人間の脳や潜在意識はまだまだ解明されていないことが多い、未開の領域である。忘れたいことを意識的に忘れられないように、覚えておきたいことなのに簡単に忘れてしまうように、過去のトラウマをなかなか克服できないように、酸っぱいレモンを口に含んだことを想像するだけで勝手に唾液が出てしまうように(これはちょっと違うか、ちなみに「条件反射」という現象らしい)、脳は人間にとってまだまだコントロール不能の域である。そんな領域で、人間が欲望のままに振る舞うことの恐ろしさを痛感する。人は制御できない領域を犯してはならないのだ。

 

「夢」というテーマを題材にした本作の監督/脚本を手がけた鬼才クリストファー・ノーラン、彼はフィクションに現実味を帯びさせるスペシャリストだと思う。彼の作る映画は、非現実的で独創的な世界観を持ちながら、辻褄の合う設定により物語が説得力を持って観客に伝り、「本当に近い将来、こんなことが起こる時代がくるかもしれない」と思わせる。また、監督の実力に加え、本作には魅力的な映画が持つストロングポイントがいくつも盛り込まれている。SF的な物語/設定、アクション、サスペンスの要素、美しく幻想的な映像、主役級の豪華キャストたちの演技、これらを束ねた監督の実力を、是非鑑賞のうえ、実感してもらいたい。ちなみに、個人的な見どころは物語のラスト。好き嫌いが別れる終わり方ではあるが、映画を観終わったあとも観客の思考を止めない作品は、強い映画だと思う。

 

”An idea is like a virus. Resilient. Highly contagious. And the smallest seed of an idea can grow. It can grow to define or destroy you.”
(「アイディアはウィルスのようにものだ。強力で、かつ伝染する。小さなアイディアの種は大きく成長し、人に道を示すか、滅ぼすだろう。」)

 

SNSが発展した現代で発生している犯罪を20年前の人々が想像できなかったように、現代を生きる我々も20年後の犯罪やリスクは想像できない。ひょっとしたら本作のように、夢の中に侵入してくる犯罪者が現れるかもしれない。情報を守る一番安全な方法は(今のところ)自分の頭の中に留めておく(内緒にしておく)ことだが、いずれ通用しなくなるかもしれない。

 

将来、金庫のようなベッドで寝るようになり、盗難保険に「夢」という補償内容が加わり、ウィルス対策ソフトを自分の脳にインストールする時代が来るのだろうか・・・心が休まる瞬間の無い未来を想像してしまう。

 

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さて、次は何観ようかな。