映画を観て、想うこと。

『孤狼の血 LEVEL2』を観て。

孤狼の血 LEVEL22021
【監督】白石 和彌

 

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「そういやもう、日本に狼はおらんのんよのう・・・。狼は凶暴になり過ぎて手に負えんようになったけぇ、人間様が根絶やしにしてしもうたんじゃ。強うなり過ぎるんも、考えもんじゃのう。」

 

呉原東署のマル暴刑事・日岡松坂桃李)は、3年前に呉原市(架空の都市)で起きた暴力団同士の抗争を裏で治めて以降、暴力団と警察組織の陰で暗躍しながら町の治安を保っていた。しかし、保たれていた秩序はある男の出所を機に崩壊の一途を辿ることになる。先の抗争で殺害された五十子(いらこ)会元会長・五十子正平の腹心であった上林(鈴木亮平)は、親(=五十子)の仇への復讐心に燃え、己の破壊衝動のままに立ちはだかる者をその手にかけていく。

 

「ワシら所詮はそこらに転がっとる石ころでしょーが。」

 

前作『孤狼の血』の公開から3年、物語の中でも同じく3年の月日が経った架空の都市・呉原を舞台に、本作はあらゆる意味でレベルアップした続編となっている。特に、若い世代の俳優さんたちの活躍が目立つ、世代交代を象徴するような作品に感じた。「一花咲かせちゃる!」と言わんばかりの意気込みで作品に臨んでいる若くて猛々しい気迫が、躍動する姿から、発する怒声から、悲哀の眼差しから伝わってくる。逆に、ベテラン陣は主役(若手)を引き立たせる脇役として、呆気なく死んでいくロートルに徹していたところもまた良い。「世代交代」と「レベルアップ/進化」、この2つのテーマがひしひしと伝わってくる一作だ。

 

「口答えしょーんは全員ブタ箱叩き込んじゃる。ええのぉ!」

 

やはり主演二人の演技について語らずにはいられない。

 

前作から引き続きの出演で、今回は座長として作品を引っ張った日岡役の松坂桃李さんは、画になるシブさとニヒルな雰囲気を身にまとったダークヒーローにレベルアップしていた。この『孤狼の血』シリーズは日岡の成長物語でもあるが、彼がイズムを継承する前作のバディ役・大上を演じた役所広司さんには決して出せない「発展途上」感を、松坂さんならではの雰囲気で醸し出していた。完成された狼ではなく、あくまで狼になろうともがく「警察の犬」感、その不完全な感じが、短く切った髪、こけた頬、無精ヒゲ、据わった眼光、そして、前作『孤狼の血』で大上(役所広司)から継承したZIPPOでタバコに火をつける仕草に表現されていた。

 

そしてもう一人、本作の最大の見どころと言っていいヤクザ・上林役を演じた鈴木亮平さん。「日本映画史に残る悪役にしてほしい」という白石監督の発注に見事応え、観た者の脳裏に一生刻まれる悪役を納品してみせた。物語の悪役は色んな言葉で表現されるが、上林を表現するのに一番しっくりくる言葉は「悪魔」だろう。ヤクザというよりサイコパスに近いその猟奇的で残虐非道な所業の数々は、時にスクリーンを直視できない描写として描かれている(間違いなく前作より閲覧注意度はレベルアップしている)。このキャラクターが悪役として最も優れているところは、極悪非道でありながら、時折そこはかとないチャーム(charm、魅力)を見せるからだろう。悪魔でありながらずっと悪魔の表情をしているわけではない、この落差が凶暴さを一層引き立たせている。日本映画界の悪役像を進化させた鈴木亮平さんの爽やかな笑顔と、純粋で恐ろしい凶暴さは必見だ。

 

「ほんなら殺してくれんね。」

 

本作の制作現場に白石監督が導入したリスペクト・トレーニングについても触れたい。ハラスメントを防止するため、本作のスタッフ・キャストは全員講習を受けて撮影に臨んでいたとのこと。お互いを尊重(リスペクト)し合って仕事をしようという風潮は、今やどの業界にも導入されるべきマインドだ。(勝手なイメージだが)映画の製作現場は監督の激しい怒鳴り声が飛び、大物役者の傲慢な態度が目立ち、若手スタッフが大勢の前で叱責される様子が思い浮かんでしまう。その結果、若い才能が芽を出す前に業界から去ってしまうことは想像に難くない。「まあ、そういう世界だから・・・」ではもう生き残れない、日本映画にしか撮れない作品を残し続けるための取り組みに、この過激な作品が力を入れて取り組んだという事実は意義深い。

 

「誰かがおらんようになったら誰かが代わりをせにゃいけん。」

 

時代の風潮に迎合して無くなってしまうのはもったいないが、生き残るために現代に順応する努力も不可欠。『孤狼の血』シリーズ、まだまだ続編を期待したい作品だ。「またムショに戻りたいんか?」、「地獄見せちゃるけぇ。」、「仁義もクソもないんかい!」、こんなセリフ、もう他の映画では聞けないもの。

 

映画館で観終わった後、興奮冷めやらぬ中、ふと周りを見渡してみた。おっさんばかりかと思いきや、意外や意外、カップルや老夫婦の多いこと多いこと。どんな内容の映画でも、熱を帯びた作品のニーズは絶えないだろう。

 

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さて、次は何観ようかな。