映画を観て、想うこと。

『ファースト・マン』を観て。

ファースト・マン First Man, 2018
監督デイミアン・チャゼル(Damien Chazelle)

 

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I don't know what space exploration will uncover, but I don't think it'll be exploration just for the sake of exploration. I think it'll be more the fact that it allows us to see things. That maybe we should have seen a long time ago. But just haven't been able to until now.
(「宇宙探査が何のためになるのかはわかりませんが、これは単なる探査ではないはずです。というよりは、我々の物事の見方を探求することにつながるかと。本来はもっと以前に手にしていたはずの観点を。ただ単にそれを手にするのが今になってしまったというだけです。」)

 

人類で初めて月面に降り立った男、ニール・アームストロングライアン・ゴズリング)。ロシアとの宇宙開発競争が激化する中、なかなか成果が出せずロシアに出し抜かれ続けるアメリカが広げた大風呂敷は「月に行く」だった。当時のコンピューターの性能はファミコン以下。数々の失敗を重ね、犠牲者を出しつつ達成された偉業とそれを成した男、それを支えた人たちの様子を、1人の男の冷静な視点から淡々と捉えた一作。

 

“We need to fail down here so we don’t fail up there.”
(「向こう(月)で失敗しないために、今ここ(地球)で失敗するんだ。」)

 

何事においてもファースト・マン(初めてやる人)になるのは大変だと思う。前例がない中での挑戦は失敗するリスクが高く、周囲の理解も得にくい。ましてや、人類で初めて月に行くというプレッシャー、恐怖は想像もつかない。だが、ニールにとってそれにも勝る恐怖は、自分の息子たちに自分は帰らないかもしれないことを伝えることだった。「お父さん、月に行ったら帰って来られないかも」、これを伝える覚悟があれば月に行く恐怖なんか何でもなかったのかもしれない。娘や多くの仲間の死を経験したニールは、残された者が背負う苦痛を自分の妻や息子たちにも味わわせてしまうかもしれない恐怖とも闘っていたに違いない。

 

“I was pleased.”
(「満足しています。」)

 

作中、記者会見のシーンでニールが言うこのセリフ。月に行く機会を得た心境を聞かれ、ニールが返す回答。とても控えめな言葉に感じた。危険な任務であることを覚悟している心境の中、少しも浮かれている様子はない。まじめすぎるほどまじめであったというニールの性格までもライアン・ゴズリングは見事に演じている。常に冷静な判断が求められる宇宙飛行士だが、彼の場合はもともとの性格に加え、娘さんの病死も影響しているのであろう。どこか心が壊れているというか、冷めているというか、何も感じていないようにさえ見える表情。夫婦喧嘩のシーンですら、感情が表に出てこない。過酷な訓練、死と隣り合わせの任務、そんな状況下でニールを支えた奥さんとは(作中には出てこないが)離婚されているようだ。月からは生きて帰って来られたが、その後も色々あったのだろう。そんなニールさんに(もう亡くなられているが)聞いてみたい。

 

「ニールさん、この映画で当時を振り返って、自分の人生に満足していらっしゃいますか?」と。

 

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さて、次は何観ようかな。