映画を観て、想うこと。

『あなたの旅立ち、綴ります』を観て。

あなたの旅立ち、綴ります The Last Word, 2017
監督マーク・ペリントン(Mark Pellington)

 

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“You made their lives sound full of achievement. That’s what you will be doing for me.”
「あなたの記事によって彼らの人生はあたかも充実したものだったかのように仕立てられていたわ。私の記事も書いてちょうだい。」

 

広告代理店の元社長であったハリエット・ローラー(シャーリー・マクレーン)は、悠々自適な老後を送っているように見えたが、心はどこか満たされていなかった。そんなある日、彼女は新聞の訃報記事欄に目が止まる。途端に彼女は新聞社に出向き、訃報記事を担当していた若手記者のアン・シャーリーアマンダ・セイフライド)に自分の訃報記事を”今すぐ”に書くように命じる。しかし、非合理的なことが嫌いな気難しいハリエットの性格は彼女の周りから人を遠ざけてしまい、彼女は家族や元同僚を含め誰からも好かれていなかった。最高のお悔やみ記事を書いてもらうため、ハリエットはアンの力を借りて再び自らの人生を歩み直すのだった。

 

“Please don't have a nice day. Have a day that matters.”
「良い一日を、とは言いたくない。意味のある一日をお送りください。」

 

主人公のハリエットは何でもかんでも自分の思い通りにしないと気が済まない。そんなコントロールフリークな彼女は、自分の訃報記事までもコントロールしようとする。本来は自分が生きているうちは書かれない、ましてや自ら書く性質のものではない訃報記事までも意のままにしようとしてしまう。しかし、この心理はどこか理解できてしまうのは私だけだろうか。

 

誰しも自分が死んだあとのことを想像した経験はあると思う。「お葬式には何人くらい来るのか?」、「皆は自分の死をどう受け止めてくれるのか?」、「自分はどういう風に人の記憶に残るのか?」。生きている内は自分の人生はやり直せる。これまでの自分の人生を振り返り、誤りや物足りなさを感じたなら、本作のように自分の訃報記事がどのように書かれるかを想像してみてはどうだろうか。「こんな風に書かれたい」というように生きてみてはどうだろうか。「今日は良い一日だったか」でなく「意味のある一日だったか」と意識してみるべきだろう。

 

“You don’t make mistakes, mistakes make you.”
「失敗こそがあなたを作るのよ。」

 

作中、ハリエットが分析した「素晴らしい訃報に欠かせない4つの要素」が以下である。

  1. 故人は家族に愛されていた
  2. 故人は同僚から尊敬されていた
  3. 故人は誰かの人生を変えた
  4. ワイルドカード(訃報の出だしを飾る読者の興味をそそるようなフレーズ)

気付くことがある。4つ挙げられた要素の中に、成し遂げた事実に関する条件は入っていない。つまり、会社を興したり、オリンピックでメダルを取ったり、世界的な発明をしたり、偉大なことを成し遂げないと素晴らし訃報記事は書けないわけではないのだ。やはり大切なのは「モノ」や「コト」よりも「ヒト」に重きを置くことなのだ。自分の人生に幕が降りた後、自分を送ってくれるのは「ヒト」なのだから。その人たちには、「すごかったね」と言われるよりも、「ありがとう」と言われたい。そんな人生の方が誇らしくないだろうか。

 

自らの訃報記事を見据えて人生を送る、そんな生き方もいいかもしれない。現実的に、自分の訃報記事には手を加えられないのだから、自分がこれから日々生きるうえでの心構えに手を加えてみる。それが実質的に自分の訃報記事の執筆活動になるのかもしれない。

 

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さて、次は何観ようかな。