映画を観て、想うこと。

『コンテイジョン』を観て。

コンテイジョン Contagion, 2011
監督スティーブン・ソダーバーグ(Steven Soderbergh)

  

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"Don't talk to anyone, don't touch anyone! That's the most important thing!"
「誰とも話さず、誰にも触らないで!とっても大切なことなの!」

 

香港出張から帰国したベス・エムホフ(グウィネス・パルトロー)は数日後体調を崩し、突如痙攣を起こし倒れ、病院に運ばれるが急死してしまう。突然の出来事に混乱し呆然とするベスの夫であるミッチ・エムホフ(マット・デイモン)のもとに、今度は息子が自宅で危篤状態であるとの連絡が入る。急いで帰宅するミッチだったが、息子も母親同様、帰らぬ人に。エムホフ一家を襲ったこの不幸は、ウイルスによるものだった。このウイルスはやがて世界中へと広がり、全世界を混沌へと巻き込んでいく。

 

何かのきっかけがないと出会えない映画がある。私にとって本作はまさにそんな一作だった。しかし、この作品は私に限らず、今こそ全ての人が出会わなければならない一作だと思う。その理由は、コンテイジョン(Contagion、英語で"感染","伝染"の意)というタイトルからもわかる通り、この作品が取り扱う題材がパンデミック感染症の世界的大流行)により人々がどのように反応・行動し、世界がどのように変わってしまうかを淡々と描いているからだ。最初の感染者であるベスの咳と共に"Day 2"というテロップから始まる本作、最後に明かされる発症原因と感染経路、衝撃の"Day 1"の真相を知った時、思わず息を呑んでしまう。

 

"If we even had a viable vaccine right now, we would still have to do human trials, and that would take weeks. And then we would have to get clearance and approval, figure out manufacturing and distribution. That would take months. And then training survivors to give inoculations. More months, more deaths."
「今有効なワクチンを見つけても、人間での治験に数週間かかる。その後、許可や承認を経て、製造や流通には数か月が必要よ。予防接種の徹底に数か月、死者が増える一方よ。」

 

作中でワクチンの開発に奮闘する医師のこの会話にハッとさせられた。ウイルスに効くワクチンの開発がゴールだと勘違いしていたが、実はそうではない。世界中の人々の体内にこのワクチンが行き届くまでには、大量生産し、世界中に行き渡らせ、医師の手で患者に投与する必要がある。現に本作でも、ワクチンが開発された後、抽選が行われ、当たった人から順番にワクチンの投与が行われていく描写が描かれる。数日待つ人もいれば、半年以上も待たなければならない人も出てくる。ワクチンが開発された瞬間が勝利ではなく、その先も闘いが続くことを覚悟する必要がある。

 

"The average person touches their face 2- or 3000 times a day."
「人は通常1日に2000~3000回自分の顔を触ります。」

"Two- or 3000 times a day?"
「1日に2000~3000回ですって?」

"Three to five times every waking minute. In between, we're touching doorknobs, water fountains, elevator buttons and each other. Those things become fomites."
「起きてる間に毎分3~5回。その合間にドアノブ、水飲み器、エレベーターのボタン、人の手。それらが"媒介物"となるのです。」

 

本作、最も印象に残ったのは人の「手」とそれが触れたモノの捉え方だ。病が世界中に広がっていく過程で、本作は発症者にではなく、発症者それぞれが何に触れていたかにフォーカスを当てて撮影されている。当たり前のこと過ぎて意識していないが、我々の手は1日にあらゆるものに触れている。思い返してみてほしい、自分は朝起きてから夜眠りにつくまでに何に触れただろう。考えただけで、洗面台に手を洗いに行きたくならないだろうか。

 

新型コロナウイルス(COVID-19)、2019年末に中国・武漢で原因不明の肺炎患者が発生したことから始まり、一気に世界中に広まってしまった。2020年4月7日にはいよいよ日本政府より緊急事態宣言を出され、私たちの生活は大きく変わってしまった。今から9年前(2011年)に公開された本作で描かれる光景は、不気味なほど今現在(2020年)世界中で起きていることと酷似している。まるでこうなることが予め予測できていたかのように。人づてに広まる感染、症状が出る人/出ない人、買い占め、学校閉鎖と都市封鎖、追えなくなる感染経路、医療関係者の奮闘と虚しくも起こる医療崩壊、陰謀説やフェイクニュースの拡散。本作を観ることで、次に何が来るかを予測すると同時に、今何ができるかを考えるきっかけになるはずだ。

 

"You know where this comes from, shaking hands? "
「握手の起源を知っている?」

"No."
「いいえ。」

"It was a way of showing a stranger you weren't carrying a weapon in the old days."
「大昔はこうやって"自分は武器を持っていない"ことを相手に示したんだ。」

 

世界中の人々同士がまた友好の握手を交わせる日が一刻も早く来ることを願うばかりである。そのために今できることをする。難しいことばかりではない。自分の手が触れるものに注意を払い、丁寧に手を洗うことから始めようではないか。

 

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さて、次は何観ようかな。