映画を観て、想うこと。

『THE FIRST SLAM DUNK』を観て。

THE FIRST SLAM DUNK2022
原作・脚本・監督】井上 雄彦

 

 

「あきらめたら、そこで試合終了ですよ。」

 

1990年~1996年にかけて週刊少年ジャンプに連載されていた伝説的バスケマンガ、『スラムダンク』。単行本全31巻の中に詰め込まれた高校生たちの4か月間(意外と物語の中での時間経過は短い)の熱い青春、その一部が3DCGアニメーションで甦る。

 

「これで勝つしかなくなったぜ。」

 

一緒に映画館に観に行った友人(バスケ経験者)は、前のめりになりながら観ていた。無理もない。バスケ経験のない自分にとってすら『スラムダンク』というマンガは特別な作品だ。誰が言ったか、「青春マンガの金字塔」とは言い得て妙だ。夢中になって読んだ青春時代が懐かしい。そんな、展開や結末も熟知していたはずの『スラムダンク』に、また感動させてもらった。

 

単なる昔ヒットした作品の焼き直しではない、本作『THE FIRST SLAM DUNK』は、懐かしさと新しさを融合させた傑作だ。作品に精通している原作ファンにとっても、原作を読んだことがない人にとっても、あらゆる人にとって初めてとなる体験が織り込まれていた。誰もが手に汗握り、目に涙と浮かべながらスクリーンに釘付けにされること間違いなしだ。

 

「ぶっつぶす。」

「受けてやる。」

 

映画が始まって真っ先に感じたのは、「井上先生の絵が・・・動いてる」という衝撃と感動だった。マンガ原作のアニメーション映画は、どうしても原作の絵と雰囲気が離れてしまうことが多いが、本作においてはそんなことは起こりえない。それもそのはず。本作は監督も脚本も、原作者である漫画家・井上雄彦先生が手掛けている(漫画家って、なぜか「~先生」って呼んじゃうよね)。

 

井上先生の「絵」には力がある。線はそれほど多くないのに緻密、繊細なのに迫力がある。まるで絵が生きているように感じる描写力。そんな井上先生の絵が3DCGという技術と融合し、バスケットボールの試合シーンは見事な仕上がりになっていた。ドリブル、ダッシュ、パス、シュート、実際の試合では見られない(コートの中にいないとわからない)角度・視点からの細かな動きはある意味現実(リアル)を超えていたようにも思う。そんな中、マンガでは小さなコマで描かれていたさり気ないユーモアも、細かな演出でスクリーンに盛り込まれていた。ニクイね~。

 

「心臓バクバクでも、精一杯平気なフリをする。」

 

加えて、井上作品のもう一つの魅力である哲学的な「言葉」も健在だ。原作を読んだことがない人でもなぜか知っているセリフがあるほど、もはや一般常識のレベルにまで達しているスラムダンクの名言。あるシーンでは、無音の演出の中でキャラクターの口が動いているだけの発せられていないはずのセリフも、なぜか自分にははっきり聞こえてしまっていた(「〇手は添えるだけ」)。それほど力がある有名な名台詞が数々登場する中、本作で新たに登場する名言・格言も。井上作品は絵だけでなく、言葉にも力がある。

 

「はいあがろう。「負けたことがある」というのが、いつか大きな財産になる。」

 

「絵」と「言葉」、井上作品の魅力が集結する先は「人(キャラクター)」に他ならない。物語よりも人を描くことを重視する井上先生の作品は、キャラクターが物語を引っ張っている。確かに、主要キャラクター5人(湘北高校の桜木、赤木、流川、三井、宮城)は全員が主役級のキャラクターだし、原作マンガを読んだ誰もがこの5人の誰かに自分を投影し、感情移入していたように思う。そして今作は、この中のあるキャラクターがフォーカスされて物語が進む。彼の人物背景、試練、葛藤、そして勇気、克服、前進が描かれている。「人」が描けていれば物語・ドラマは魅力的になる。これぞ真理だ。

 

「俺に必要な経験をください。」

 

井上先生、ありがとうございました。これだけの作品ですから、生みの苦しみは並大抵のものではなかったことと推察いたしますが、人々に与えた感動も一入(ひとしお)です。少しお休みいただき、次は是非この感動を『バガボンド』でもお願いいたします(武蔵が動くのを、見たいのです)。

 

 

さて、次は何観ようかな。