映画を観て、想うこと。

『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』を観て。

ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド Once Upon A Time In Hollywood, 2019
監督クエンティン・タランティーノ(Quentin Tarantino)

 

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“Hey! You’re Rick fucking Dalton. Don’t you forget it.”
「おい!お前はリック・ダルトン様だろ。忘れんなよ。」

 

昔々、アメリカはハリウッドに、リック・ダルトンレオナルド・ディカプリオ)というTV俳優とクリフ・ブース(ブラッド・ピット)というスタントマンがいました。リックはTV界から映画界への転身を夢見る人気絶頂期を少し過ぎた落ち目の俳優、クリフは訳ありの過去を持つリックの付き人兼スタントマン。二人は良き親友であり仕事のパートナーである。時代の過渡期にあった1960年代のハリウッド、時代が次第に彼らを求めなくなる中、彼らは懸命に自身のキャリアや理想/現実と向き合っていた。そして彼らは、ハリウッドを震撼させたあの忌まわしき1969年8月9日を迎える。

これは、かつてハリウッドに生きた人々と実際に起きた事件を題材にした「おとぎ話」である。

 

“When you come to the end of the line, with a buddy who is more than a brother and a little less than a wife, getting blind drunk together is really the only way to say farewell.”
「潮時を迎え、兄弟より深く、妻より少し浅い絆で結ばれた相棒との惜別の時は、お互いヘベレケになるまで酔っぱらうことでしか乗り越えられない。」

 

本作の主人公2人は、良き相棒関係にありながら性格は正反対だ。リックはプライドが高く短気。気にしいで涙もろい。かつてほどの輝きは薄れたとはいえ、それなりに裕福な生活を送っているのに満足できない。一方、クリフはリックの「影」的存在として、専属スタントマンのみならずドライバーを兼任し、リックの身の回りの世話も文句ひとつ言わずしている。郊外のトレーラーハウスに犬と暮らし、裕福とは言えない生活に、彼自身は満足している。どちらも華やかな街・ハリウッドで生きる彼らだが、自分の中の価値観はまるで違う。そんな対照的な二人が醸し出す掛け合いのハーモニーは、見ていてなぜか心地がいい。

 

また、本作の舞台となっている1960年代のハリウッドを疑似体験できるのも、本作の魅力の一つである。街並み、道を走る車、ファッションなど、観ていてワクワクするような一面と併せて、本作はきらびやかで眩しいイメージしかなかったハリウッドの裏の一面もちゃんと映し出している。ベトナム戦争に反対する若者たちが、大人たちに、社会に、あらゆる形で反抗していた1960年代のハリウッドが混沌の中にあったことが伺える。本作をより楽しむためには「予習しておくべきキーワード」がいくつかある;「カウンター・カルチャー」(対抗文化)、「ヒッピー文化」(英語の俗語で「かっこいい」を意味する"hip”が由来)、「チャールズ・マンソン」(実在の人物、本作にも登場)、「マンソン・ファミリー」。

そして、「シャロン・テート殺害事件」。本作では「触れられているが、描かれていない」ハリウッドの暗黒史の1ページ。興味のある方は是非調べたうえで、本作を鑑賞してほしい。

 

“Actors are phony. They just say lines that other people write and pretend to murder people on their stupid TV shows. Meanwhile, real people are murdered every day at Vietnam.”
「俳優は嘘っぽいわ。他人が書いたセリフを言って、馬鹿げたテレビドラマで人殺しごっこして。その間にも、ベトナムでは毎日人が殺されてるっていうのに。」

 

タランティーノ監督作品は本作で9作目。タランティーノ監督曰く、「これが過去8作の集大成」とのこと。すなわち、「今まで映画を撮ってきたのは、全てこの一作を撮りたかったからなんだ」と言うことだろう。彼にとってどうしても作りたかった一作、自身が幼少期を過ごした1960年代のハリウッドを描いた本作は、途中までは「タランティーノっぽくない」印象だった。そう、途中までは。ご安心ください、タランティーノ節は健在です。

タランティーノ作品がすごいのは、史実を題材にしているのに史実通りに作っていないところだと思う。過去の出来事に対して「もしもこうであったなら」という風に描いてしまう大胆さ。「映画ってこんなこともできるんだ」、「こんなこともアリなんだ」と感心してしまう。「規格外」という言葉がピッタリ当てはまる監督だ。

また、個人的にタランティーノ映画の不思議な魅力は、カットの間に挟まる何気ない細部の描写や絶妙な俳優の仕草の捉え方だ。物語の本筋とは無関係なシーンが多いが、なぜか頭にこびりついて離れない何気ないシーンがタランティーノ作品には必ず存在する。・・・自分だけだろうか。共感してくれる人と語り合ってみたい。

 

“That was the best acting I’ve ever seen in my whole life.”
「私の人生で見た中で最高の演技だったわ。」

 

過去を「こうあって欲しかった理想形」に塗り替える、映画ってそんなこともできるんだなぁ。映画の大いなる可能性の一つを示してくれる一作。おとぎ話はやっぱり「めでたし、めでたし」で終わらないとね。

 

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さて、次は何観ようかな。